リンゴとアラン

QUEST-CE-QUI
大切にしている1冊、1966年に発行されたフランス人絵本作家・イラストレーター、アラン・グレの「Qu’est-ce qui fume?(あの煙はなんですか?)」という絵本です。

むかしイラストレーターという職業に憧れていたのですが、ひょんなことから当時通っていた古着屋で働けることになり、そのまま古着屋へ就職しました。もともとは古着好きだったので古着に囲まれていることの幸せは大きく、イラストレーターへの憧れは薄れていき、1950年〜60年につくられたMADE IN U.S.Aの服を眺め、その時代のこと、服のことなどを勉強する日々を続けていました。
すっかりイラストを描かなくなって6年、7年くらいが過ぎ「自分はこれから先も古着屋で食っていくんだ」と決めた矢先にレインボーロゴのMacintoshと出会いました。パソコンとファミコンの差もわからないくらいアナログな時代に育ってきた自分にとって、Macintoshを初めて見た時の驚きと衝撃は、今でも超えることはありません。同時に、Adobe社のIllustratorとPhotoshopにも驚かされました。絵の具の染み込んだ筆のように、色とりどりのマーカーのように、巧みに使いこなした定規のように、Macintoshの中で動いていたのです。初めて見た光景は目から鱗どころか、一日中その四角い箱の前から動けず、薄れていった憧れにじりじりと火が灯され、「またイラストを描きたい!」という思いと「とてつもない可能性」を感じたのでした。
そして、初めて目にしたこの日にMacintosh本体、モニター、IllustratorとPhotoshopを買ってしまうのです。当時のMacintoshや周辺機器はとても高価なもので、今考えるととんでもない金銭感覚ですが、その時は誰にも止めることのできない常識はずれな欲念があったのでしょう。

人生何が起こるかわかりません。ともあれ、今こうやってデザインの仕事をさせていただいているひとつにはMacintoshとの出会いや、それと同じくらいにアラン・グレの絵本との出会いがあったからだと思います。もちろん物だけではなく人との出会いもそうですが、モチベーションを支える力は、意外と身のまわりにたくさんあるものです。